2015.09.24

財産(レガシー)を使いきれ! 社運をかけた文明堂東京の『おやつカステラ』【後編】

財産(レガシー)を使いきれ! 社運をかけた文明堂東京の『おやつカステラ』【前編】」に引き続き、【後編】をお届けします。

"共通言語"が見つからない?

今回、山田が担った役割は、望む販路で商品が売れるカタチを考え先導する、いわばマーケッター+クリエイティブディレクター。そして、デザインはY2(※)とタッグを組む。一方、文明堂社内では、肥留間が関連部署との調整に奔走するなか、制作過程でも新しい世界観への抵抗が起きていた。この混迷する現場と、販路を見据えたクリエイションとを、Clipのファシリテーター・近藤が橋渡しをすることにもなる。

- 山田
「Y2さんにデザインをお願いしたのは、何よりも "前のめりにコミットしてくれる"からなんです。」

- 近藤
「さらにY2さんは "売る"ことを見据えたデザインができますしね。 "新たな事業を社外でクリエイトする"ということがClipのコンセプトなので、今回も、流通を無視した単にオシャレなものを創るのではなく、当然ながらビジネスとして成り立たせたいというのがあったんです。」

- 肥留間
「うちは商品開発の現場でも過去踏襲の慣習があったので、積極的に提案してくださる今回の皆さんは、社内でも、それはそれは衝撃的な出来事でしたよ。」

- 近藤
「提案内容も抵抗があったのでしょうが、使っている言葉自体も違うようでしたよね。肥留間さんの部署の方々が、山田さん・Y2さんとの打ち合わせが終わると、僕のほうに、『先方が怒っているんですけど...』って(笑)。」

- 山田
「怒ってない! 怒ってない!(笑)。」

- 近藤
「また例えば、商品のPOP担当である社内のデザイナーさんが、Y2さんの方向性をなかなか理解できない。『今までの文明堂だと、こういう方向が売れたんです』って。そんな時僕が『今創ろうとしているものは、今までのトンマナとは全く違うので、デザインのルールも違うんですよ』と考え方の境界を示唆して。そこで初めてY2さんの言葉が理解できる。そういう混同が多かったですね。」

- 肥留間
「やはり、簡単には、今までの世界観と新しいそれとの割り切りができなかったのでしょう。近藤さんには、頻繁に"通訳"になっていただき、話をおさめてもらいましたよね。」

- 近藤
「無理もないと思いますが...。僕は仕事柄、大企業・老舗企業・行政などとの関わりが多いので、文明堂さんのような大組織のロジックは理解ができると、若干の自負はありました。なので、相互通訳というよりは、Y2さんたちの新しい切り口を文明堂の現場へ"翻訳"していく方に、注力しましたね。このように、企業とクリエイターが協業するイノベーティブな開発の場面では、共通理解に至るまでに様々なミスコミュニケーションが起こりがち。今回のことを通して、そこの橋渡し機能の必要性も、改めて強く感じました。」

- 肥留間
「実は、僕自身もパッケージが具現化していく途中、不安に襲われ、山田さんへ相談にいったことがあるんです。『本当にこれでいいんですかね?』って(笑)。」

- 山田
「『どれだけミスっても、東京カステーラよりは売れるはずだから、大丈夫ですよ!』って太鼓判押して(笑)。」

※ Y2:"有井姉妹"が愛称のデザインユニット。伝統工芸や地場産業にまつわる商品デザインを多く手掛ける。(http://y2int.com)。

多くの"タッチポイント"がPRの鍵

さかのぼれば宮内省御用達でもあった文明堂のカステラ。憧れの高級品の名は、何もしないでも知れ渡っていった。文明堂が抱えるPRに対する苦手意識は、日本指折りの老舗菓子企業としての、避けられない宿命ともいえよう。そして今回、"おやつ=文明堂"の刷り込みのため、前代未聞のPRにも挑戦することになる。

- 山田
「パッケージの側面には、欲張りに全ての財産を入れ込みましたよ。『カステラ一番、電話は二番』のCMフレーズ、5匹のクマ、蜂蜜を練り込んだ優しい味、お手軽な二切れサイズ、安心感ある文明堂の品であること、などなど。独り歩きしても、文明堂を充分にPRできるようなパッケージなんです。

また、この商品を媒介に、例えばCM世代が、子供に懐かしの味を教えてあげるといったコミュニケーションが生み出せたらいいな、と。さらに若い世代の間でも、SNS等で口コミにつながったり、"おやつ=文明堂"という再発見をしてもらえたら、なお嬉しい。要はお客さんに対して、どれだけタッチポイントがあるかというところが、今回のコンセプトなんです。」

- 近藤
「さらに量販路線のため、ぱっと見で中身が分かるよう、黄色い"カステラ色"でいこうと。」

- 肥留間
「そんなふうに、先日の店長会で商品の狙いを説明したところ、思いのほか評判が良く、みんな『売ってみたい』って言うんですよ! 売上責任がある彼女たちがそう望むんだから、我が社にこのイメージを持っていたのかなぁ、なんて。」

- 山田
「僕は、店長さんの気持ちがよく分かりますね。彼女たちの中にもこのような記憶やイメージが健在であるなら、なおさら一般のお客さんも共感してくれると思います。」

- 近藤
「店長自身も、店頭のトークで広められますからね。今までとは全く違ったPRですけどね。」

- 山田
「それと僕は、ぜひあの『カステラ一番~♪』のCMソングを商品脇で一緒に流したほうがいいと!」

- 肥留間
「ご提案通り、それも何店舗かのモニターでやる予定です。」

- 山田
「本当ですか! 今回は、僕含め関わる人すべてが発信力を意識して戦ってきた。これからは会社一丸となってPRができたらいいですよね。何はともあれ僕は単純に、子供の頃CMで見ていた文明堂さんに、こんな形で関われて本当に光栄ですし、これをお土産に持参して相手の反応を見るのが今から楽しみです。」

- 肥留間
「もしこれが売れたら、百貨店での新たな展開もありえるかもしれませんね。それと、今回のことを足掛かりにして、ブランディングを見直す時期が来た気もします。いろんな面で、気を引き締めていかないとですね。」

- 山田
「いよいよ、発売。何が何でも、ぶっとばしてみせましょうよ!!」

組織の暗黙知に、風穴をあけること。組織の価値を、新しい言語に翻訳してみること。そんな過程にも、イノベーションが見え隠れしていそうだ。(了)
The Clip Times Cross Talk01 文明堂東京、山田遊

肥留間 一 (ひるま・はじめ) 
株式会社文明堂東京 マーケティング部長
1983年文明堂東京入社。羽田空港を中心とした新規市場開拓に従事した後、マーケティング部にて商品開発に携わる。文明堂は1900年長崎にて創業(現・文明堂総本店)。1922年に東京進出、上野に1号店出店(東京文明堂創立)。1925年宮内省御用達を賜る。1957年TVCMを開始。2010年㈱文明堂新宿店・㈱文明堂日本橋店が合併し、現・株式会社文明堂東京となる。
山田 遊 (やまだ・ゆう) 
株式会社メソッド 代表取締役 
バイヤー/クリエイティブディレクター。南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年、クリエイティブディレクション事務所「method(メソッド)」を立ち上げる。グッドデザイン賞審査委員、「APEC JAPAN 2010」・「2012年IMF・世界総会」にて世界のゲストへのお土産品セレクト、京都精華大学非常勤講師など、多岐に渡り活動中。
WORKS   ①国立新美術館ミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」サポートディレクション ②羽田空港内の東京土産セレクトショップ「Tokyo's Tokyo」グッズセレクト 他
近藤 ナオ(こんどう・なお)
Clipニホンバシのファシリテーター。

Clipニホンバシとは?

Clipニホンバシは、アイデアを生む段階から、それがビジネスとして成立するまでのプロセスをすべて短期間で実践できる新しいコワーキングスペースです。
メンバーは、営業時間中、施設を自由に使うことができます。
週2~3回開催されるワークショップへの参加や、ミーティングルームの貸切などの特典を活用して、たくさんの出会いと、新しいビジネスが生まれています。
http://www.clip-tokyo.com/

本記事は、企業人・クリエイターの新しい働き方を提案する、Clip ニホンバシの情報誌「The Clip Times vol.1」から、「Cross talk 01」を転載したものです。

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